少女のころからずっと好きなものを思い出してみると、自分の心の芯が見えてくる。
デザイナー・篠崎英子さんがずっと記し続けている旅のノートと、新しいブランドで大切にしていること。
ヨーロッパの鉄道の仕事をしていた父の影響で、旅ノートを付け始めたという。「旅で集まったレシートを束ねておくだけでもいろいろな情報が詰まっているから」と勧められたが、それだけではつまらないと、ショップカードを貼ったり、印象に残った景色や、購入したものの絵を描いたり、訪れた店や家族との写真を添えたり。時刻表やお店の感想、食べたもの、これから行ってみたいところなども記されている。この旅ノートは今もずっと続けている習慣だ。
8歳から家族とイギリスで暮らし、12歳から1人、フランス・アルザス地方の学校へ。旅好きの気質はその頃に培われた。主宰するアパレルブランド・Wanderclad etc…も旅がテーマになっている。日本で暮らす祖母から送られてくる雑誌『Olive』も篠崎さんの嗜好に大きな影響を与えた。「日本の高校生たちは『Olive』の世界に生きていると思っていたので、17歳で帰国したとき、ギャル文化に驚きました(笑)」
コロナ禍にアパレルの仕事が滞ったとき、篠崎さんは再び自分の原点に戻る。外出規制の中で大切にしていた入浴と睡眠の習慣、「友人たちは元気にしているかな?」という思いが繋がって、子どものころからなじみがある大好きなハーブのバスソルトを作ろうと思い立つ。軽井沢のハーブ農園を訪れ、オリジナルのハーブブレンドを制作。2020年にBath Time Remediesを立ち上げた。
商品化する際、グラフィックデザイナーにロゴやパッケージのデザインを依頼し、スタイリッシュにブランドの世界観を提示するのが一般的だ。しかし、久しぶりに会った友人とのおしゃべりの中で「自分がずっと好きな世界観でいこう!」と自分で手がけることに決めた。どこか懐かしさも感じる愛らしいパッケージのインパクトは絶大で、生活を楽しむ女性たちへ瞬く間に届いていっている。アパレルと比べて手にしやすい価格帯で、多くの反響も届くようになった。翌年には少しの不調をお茶で整えるハーブティーの展開もスタート。“ささやかだけど、うれしい時間”を届ける小さなブランドは、利益第一のものづくりや“大人の事情”などからは無縁だからこそ、プライベートな時間を純粋なしあわせで満たしてくれる。
篠崎英子 Hideko Shinozaki
1979年東京生まれ。Wanderclad etc…デザイナー、フリーランスコンサルタント、イラストレーター。2020年にハーブのバスソルトとお茶のブランド・Bath Time Remediesを立ち上げる。
- Instagram: @hidekos
- Instagram: @bath_time_remedies
- Instagram: @wanderclad_etc